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函館家庭裁判所 昭和49年(少ハ)3号 決定

少年 D・A(昭三二・二・一五生)

主文

少年を中等少年院に戻して収容する。

事実

少年の審判廷における陳述および本件関係記録によれば次の事実が認められる。すなわち

1  少年は昭和四八年四月二五日旭川家庭裁判所において、中等少年院送致となり北海少年院に収容され、同四九年八月六日仮退院を許され、旭川市○○○○××丁目所在の○○保護会に帰住し、旭川保護観察所の保護観察下に入つたうえ同市内の○○左官に左官見習として就労したが、同月一〇日右保護会収容者○谷○広所有の背広一着と現金四、〇〇〇円を各窃取して右保護会を無断で飛び出し、札幌市内と函館市○○○付近で放浪野宿したのち、同月一三日市内を放浪中のところを函館中央署に保護された。

2  旭川保護観察所と函館保護観察所とで連絡協議したうえ、少年の函館市内で働きたいとの意向を尊重してその所管を函館保護観察所に移管し、同所において少年を函館市○○町××番×号所在の○○助成会に収容し同月二四日少年の納得を得て市内の左官業○橋○見方に住込み就職させるも全く就労せず、右同日無断で右○橋方を飛び出し、翌二五日右助成会付近をうろついているところを再度保護収容したが、担当保護観察官および保護司において少年の右行動につき事情聴取するも少年は逆に「ぶつ殺されるな」「今度はてめえのことをつけねらつてやるから覚えていろよ」等と暴言を吐き机をたたくなどの行為におよんだ。

3  その後少年は右助成会職員の指示を嫌つて同月二七日夕食後右助成会を無断退去し、同日午前六時四〇分ころ函館市○○町××番×号○杉○務○こと○杉○太○方事務所において金品を窃取しようと机の中を物色したが、従業員○田○弥に発見されたためにその目的を遂げず、そのまま許されて所在をくらました。

4  そして少年は同月三〇日夜、電話帳で右助成会主幹○岡○雄方電話番号を捜し出したうえ、電話で同人に対し「助成会でみんなに冷たくされたのでいずれ仕返しをする。俺は暴力団に加入したので、そのうち大勢で押しかけて行く」旨脅迫的言辞を弄するなど、担当保護観察官、保護司および助成会職員において少年の更生を図るべく就労をすすめ、少年の気持を受容しつつ種々訓戒注意するもその生活態度は全く改善されなかつたものである。

処遇の理由

少年の右記載にかかる行為は、保護観察の一般遵守事項(犯罪者予防更生法第三四条第二項)第一号、第二号および第四号に各違背し、特別遵守事項第三号(落ち着いてまじめに働くこと)、第五号(夜遊びをしないこと)および第六号(保護会の規則を守り、職員の指示に従うこと)に各違背することは明らかである。

そして少年の審判廷における陳述、本件関係記録および函館保護観察所の係官の陳述を総合判断すると、少年は少年院を仮退院する際帰住先を保護者両親宅としてその監護に服することを嫌い自らの意志もあつて前記○○保護会としたものであり、他方保護者においても在院中のみならず仮退院に際しても、面会や出迎えに行くことなく、現在に至るまで一度も面会しないまま放置するなど、監護の意志・能力に欠ける状況にあること、そして前記事実欄記載のとおり少年は右保護会帰住後わずか四日で仕事を放棄し窃盗を敢行したうえ右保護会を無断退去して放浪を始めたもので、函館において保護され前記○○助成会に収容された後も就職先を即日飛び出し窃盗未遂をなしたうえ監督・指導にあたる保護観察官・保護司および右助成会職員の指示に対してその好意を素直に受け容れることができないで反発興奮して爆発的行動に出たほか、逆恨みしては被害感情をいつまでも持ち続け脅迫的言動に出るなど、少年の傷つきやすく不安定な心情を考えてもその行動は常軌を逸していること、また少年は劣等感が強く些細な刺激に対して異常に心を傷つけやすく、情緒不安定で即行的、自己顕示性が強くしかも非常に自己中心的で内省心に乏しい、他罰的でかつ自己防衛の構えが強く孤立しては嘘言をつくほか、他人に相談を持ちかけて課題解決を図る等の術を知らないなど、非行の固着化傾向とともに通常の社会生活を営むに必要な基本的生活習慣を身につけておらず、このままでは社会の底辺で非行を繰り返しつつ放浪生活を送るおそれのあること、がそれぞれ認められる。

以上の事実および函館保護観察所の係官の意見に徴すると、少年の前記性格行状から考えて少年に対しこのまま社会内処遇を継続しても、放浪しては再非行をなす可能性が強くかつ切迫しており、しかも保護者の監護能力に期待することは困難であるところから、もはや社会内処遇の域を越えているものと認められ、少年の改善・更生のためには少年を施設に収容して矯正教育を施すことが必要であると解される。

よつて少年に対する北海道地方更生委員会の本件申請は相当であるので、犯罪者予防更生法第四三条第一項、少年審判規則第三七条第一項、同規則第五五条、少年法第二四条第一項第三号を各適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 長島孝太郎)

理由

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